宇都宮LRTの経緯(4) 検討の停滞と再開ー2006年から2013年ー

4.関東自動車の反対と検討の停滞 - 2006年から2010年

 

 LRT検討の中心となった宇都宮市は、2006年4月に「LRT導入推進室」を設置し、新交通システム導入課題検討委員会を主催して検討を継続した。

 2007年3月にまとめられた委員会報告書では、①LRT整備は公設民営方式を想定、②公共交通事業者の経営ノウハウの活用を前提として民間事業者が参画できる運営形態を具体化する、とされており、また、公共交通全体の利便性向上策を主体とした基本理念の実現に向けて、交通事業者と共に取り組んでいくこととされた。

 この間2006年11月には、大通りで一般車の通行を禁止し、バスのみを走らせるトランジットモール実験が行われている。

 

 宇都宮市内のバス交通は、関東自動車、東野交通、JRバス関東の3社により運行されており、そのうち多くの割合を関東自動車が占めている。関東自動車宇都宮市の発展と合わせ路線を拡大し、市内、県内に多くの路線を有していたが、経営不振に陥り2004年11月に産業再生機構に対し支援要請を行った。再生機構の支援による経営再建は2006年5月に終了し、株式譲渡が行われて投資会社ジェイ・ウィル・パートナーズの傘下会社となった。

 その後の関東自動車の動向には、買収企業の価値棄損を最小化することで企業価値を高め、保有資産の優良化を図るというファンドの意向が強く働いているものと見られる。

 2007年7月に、関東自動車は「LRT導入は(関東自動車の)企業再生に逆行する」との意見書を市に提出して、関係者間で開催される検討委員会への不参加を表明した。9月には、①LRTに反対、②事業者・出資者にはならない、③LRT導入の場合、路線バス事業から全面撤回せざるを得ない、と市に通告し、LRT反対の旗幟を鮮明にした。これにより、運営主体の有力候補の一つが消えただけでなく、公共交通網再編についても正面から対決姿勢を取ることとなり、宇都宮市主導となって進むかと思われたLRT検討は、再び暗礁に乗り上げることとなった。

 

 関東自動車の合意が得られない中で、2009年3月まで検討委員会が開催され、報告書がまとめられた。この時点では、LRT導入が具体化できる状況ではなかったが、市は検討内容についての説明会を引き続いて開催し、市民理解の促進を図ることを予定した。

 2009年8月の衆議院議員選挙で、民主党が第一党となり、自民党からの政権交代が行われた。民主党政権は政治主導を強く打ち出し、これまでの官僚主体の政治システムからの転換を図ろうとした。地方でも、国に対し予算・要望などを上げていく過程において、民主党県総支部連合会(県連)の関与が強化された。これにより、栃木県連代表である福田(昭)代議士の影響力が県政・市政の場で強まることとなり、2009年10月に民主党栃木県連はLRT反対の申入れを県・市に行った。

 このような情勢変化を踏まえ、これまでLRT推進の立場をとってきた宇都宮市議会自民党からも、「政権交代で先行き不透明なため、LRT住民説明会を一時先送りすべき」との要望が出された。

 

 2010年4月の宇都宮市組織改正で、LRT導入推進室は廃止となり、LRT導入の動きはほぼストップした。

 

5.検討の再開と反対派の動向 ― 2013年

 

 2012年11月に行われた宇都宮市長選挙で、佐藤市長が3選を果たした。過去の選挙(特に2008年の2選目)では、LRTの賛否があまりに政治問題と化してしまったため、LRTを前面に打ち出さない選挙戦術を意図していた佐藤市長だが、3選を目指すこの選挙では、LRT導入の是非を最大の争点として挑んだ。その結果は、対立候補に2倍以上の得票差をつけて当選というもので、佐藤市長はこれにより市民の負託を受けたとして、LRT推進を加速化させることとなった。

 また、2012年4月には関東自動車みちのりホールディングス傘下に入り、地域の公共交通を担う企業としてこれまでの反対姿勢を軟化させる様相を見せ、12月の衆議院選では自民党が第一党に返り咲くなど、周辺状況も変化してきた。

 

 2013年1月に、宇都宮市は再び「LRT整備推進室」を設置し、3月に「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」を公表した。この中で、JR宇都宮駅東側12㎞を優先整備区間として、公設型上下分離方式によりLRTを整備する方針が再確認された。4月には国土交通省から副市長を招聘し、本格検討を開始した。

 10月に芳賀町から、芳賀町内の芳賀・高根沢工業団地にあるホンダ技研の工場まで、LRT計画路線を延長する要望が出された。この要望を受け、LRT路線を芳賀町まで伸ばし、宇都宮駅東口からの全15㎞として検討を進めることとなった。また、宇都宮市芳賀町共同で芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会が設立され、この委員会で需要予測、快速列車を導入した運行計画、事業費整理などが行われ、実現に向けて深度化が行われた

 

 LRT検討が再開される中で、反対活動も引き続いて行われていた。反対派の主な主張は/事業費が巨大で、市財政に悪影響を与える/需要予測の内容が不明確で、利用者が少なく不採算の恐れがある/LRTで道路の車線数が減り、渋滞が悪化する/渋滞対策は鬼怒川新橋などで対応できる/バスとの乗り継ぎはかえって不便になる/市民との合意形成が不十分/といったものである。大きく分けると、①そもそも論として巨大公共事業の必要性(と採算性)、②対案としての市内交通のあり方論(クルマに対応した道路整備+バス交通を充実)、③合意形成、の3つに分類される。

 反対派の組織化は、2006年に民主党県連の呼びかけにより行われ、活動が活発化した。2014年1月と2015年3月には、2度にわたって署名活動を行い、LRT導入に関する住民投票の実施を求めたが、いずれも市議会で否決されている。その後も、反対集会を開いたり、市議会への陳情を行うなど、活動は続いている。

 

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