宇都宮LRTの経緯(5) 運営主体決定と着工ー2014年以降

6.運営主体の決定 - 2014年から2015年

 

 2014年4月に、関東自動車は新聞取材に答える形で、LRT導入を肯定するとともに、営業主体を担うのは地元最大手の公共交通事業者としての責務という考えを表明した。前述のとおり、関東自動車は2012年にみちのりホールディングス傘下に入っており、以前のジェイ・ウィル・パートナーズ傘下時代のLRT反対の姿勢から、180度転換することとなった。

 

 LRTの運営主体については、ここまで具体的な取り組みは進んでいなかった。そこで宇都宮市は、2014年度内に運営主体を決定することを目指して、全国の軌道事業者14社と、地元交通事業者5社に意向調査を行った。その中で、事業参画に関心ありとの回答が、4社から得られた。市は4社の名を明らかにしていないが、新聞紙上では地元の関東自動車、東野交通、JRバス関東の3社と、岡山を本拠とする両備グループの名が挙げられている。

 しかし、その後調整は難航し、目標とした2014年度末を迎えても進捗は見られなかった。水面下では、市・県や地元経済界には、本命として東武鉄道の参画に期待する動きがあったものの、東武側がこれを固辞したと報じられている。また意向調査に応じた4社にも、各社それぞれに課題があると見られ、その中の1社に決めることは厳しいとの見方があった。このような動向を踏まえ、新規の第三セクター会社による運営の可能性も、取りざたされるようになった。

 

 2015年6月に、運営主体の公募手続きが公式に行われた。この公募には、関東自動車だけが応募したが、運転士などの要員確保策が明確に示されず、民間のリスク分担が限定的として、7月に不採択となった。リスク分担については、関東自動車の提案書の中では、開業前資金の市からの借り入れや、開業後に赤字が出た場合の行政補填を求めており、これが運営主体として不十分とされた。

 そして、LRTは大規模な事業のため民間だけで行うにはハードルが高いとして、行政の信用性を持って事業の確実性、安全性を確保できる運営主体である、第三セクターを設立する方針となった。

 出資比率は、宇都宮市芳賀町が51%を保有し、民間から関東自動車10%、東野交通1%、東武鉄道4%、ほかに地元経済界の出資を仰ぐことに決定した。また、社長に宇都宮市副市長、副社長に芳賀町副町長が就き、常勤の常務取締役として元広島電鉄常務が就任する体制で、2015年11月6日に宇都宮ライトレール株式会社が設立された。

 

7.計画の認定と着工までの動き - 2016年以降

 

 2016年1月に、宇都宮市芳賀町・宇都宮ライトレールの3者は、軌道運送高度化実施計画の認定申請を行った。これは、地域公共交通活性化及び再生に関する法律に基づいた、上下分離方式による軌道の整備計画である。

 軌道運送高度化計画は、軌道法のみなし特許に相当する事案のため、運輸審議会の審議案件となり、7月の公聴会を経て、9月に認定することが適当との審議会答申が行われた。この答申を受け、2016年9月に国土交通大臣により高度化計画が認定された。

 並行して、LRT路線の都市計画手続きも進められ、2016年5月に都市計画決定の告示が行われている。

 

 高度化計画認定後の2016年11月の宇都宮市長選挙では、現職の佐藤市長と、LRT反対を唱える対立候補との一騎打ちとなった。対立候補は、LRT中止を全面に掲げた一点突破戦術で挑み、この戦術に現職も巻き込まれることとなり、選挙戦はLRT反対論とそれに対する釈明・防戦に終始する、シングルイシューの様相を呈した。

 結果としては、佐藤市長が4選を果たしたものの、得票率の差は3.6ポイントで、僅差の接戦であった。

 

 当初宇都宮市は、高度化計画認定後すみやかに工事施行認可申請を提出し、2016年度内の着工を予定していたが、この情勢から年度内着工を延期し、着工までの間に再度の市民説明と広報の強化を行っていく方針とした。その後、沿線5地区での事業説明会や、市内各所でのオープンハウスの開催、沿線ショッピングモールへの常設の情報発信拠点の開設などを行い、着工に向けた機運が高まってきた。

 2017年9月の宇都宮市議会では、LRTの手続きに関する議案に対して、民進党系会派が賛成に転じている。

 

 そして、2017年8月に工事施行認可申請が行われ、2018年3月に認可がおり、5月には起工式が挙行されて、2022年3月開業を目指して工事に着手した。

 

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